許せなかったこと

 

子どもというのは、

何も考えていないようで

結構色んなことを見ているし、感じている。

 

そして私には

子どもながらに
許せなかったことがある。

 

時は遡り、

私がまだ保育園の頃の話。

 

私の通う保育園では、

毎月「◯月生まれのおともだちを祝う会」といった、「あそこはやばいって聞くよ」と入学時に既に噂が立っている飲みサーがよくやりそうなイベントが開催されていた。まぁ要はただの誕生日会である。

 

しかし、

たかが誕生日会、されど誕生日会。

 

特に、子どもにとっての誕生日会というのは、自分が主役になれる特別な日であり、非日常を感じられる大切なイベントだ。

 

私の保育園では、

大体月に5〜8人ずつぐらいが

お祝いされていた気がする。

もちろん月によってばらつきはあるのだが。

 

園児とせんせいは

園内のホールのような所に集まり、

その日の主役たちは壇上に上がる。

 

確か、みんなに歌を歌ってもらったり

ゲームみたいなことをしたと思う。

さすがに詳しくは思い出せない。

 

でも、1つだけ強く記憶に残っていることがある。というか、私にとって誕生日会の醍醐味とはまさにそれだった。

 

この誕生日会では

最後にイチゴのショートケーキが運ばれてきて、主役たちはそれを壇上で食べることができるのである!

 

「いいなー」と羨望の眼差しを向ける皆を見下ろしながら、その月の主役たちはこぼれだす笑みを抑えきれないといった表情で、ご満悦にケーキを頬張っていた。

 

祝う方は暇だしケーキ食べれないし、正直すごく退屈なのだが、皆心のどこかで「いつか自分も祝ってもらえる」又は「自分もあの時祝ってもらえた」という思いがあり、おともだちのめでたい日を素直にお祝いしていた。いや、めちゃくちゃいい保育園かよ。

 

しかし、

私は2月生まれなので

ひたすらにもどかしい思いをすることになる。

 

繰り返される誕生日会。

繰り返し歌を歌い、繰り返し主役たちがゲームではしゃぐのを見て笑い、繰り返しケーキを見ながら唾を飲み込んだ。

 

「はやく、私も....!」

そんな思いでいつもやり過ごしていた。

 

そして、ついに2月がやってきた。

節分の日だった。

ようやく私は、憧れの壇上に立ち、見る側から見られる側になったのである。

 

早生まれのせいか、

いつもより祝われる人数は少なかった。

そのことが余計に主役感を際立たせ、シャイだった私は顔が熱くなるのを感じた。(たぶん)

 

会が始まってまだ間もない時だった。

突然、ステージ下の観客たちがざわめきだした。

 

「きゃー!!!」

「見て見て!なんかおる!!!」

 

ざわめきはやがて悲鳴に変わり、泣き出す者もいた。

 

壇上の私たちは窓を背にしていて気づかなかったのだが、振り返ると、窓の外から赤と青の大きな物体がこちらを覗き、煽っているのだった。その安っぽい赤と青の影は、太くてとげとげした棒を持ち、趣味の悪い豹柄のパンツを履いて、頭にはツノが生えていた。

 

さっきまでの和やかなムードは一変し、断末魔のような雄叫びがあちこちから上がった。会場はもはやパニックだ。誕生日会どころじゃない。天国が地獄に変わる瞬間を初めて見た気がした。

 

私はただ、ぽかんとしていた。
ほんとに、開いた口から「ぽかん」という音が出るようだった。

 

そこでやっとせんせいが前に立ち、マイクを取った。

 

「みんなー!鬼さんがきたよー!これから各教室に戻って、鬼さんを退治するよ!」

 

皆はパニックのまま、逃げるように会場から外へとなだれ込んだ。まるでテロである。

 

 

「いや、誕生日会は...???」

 

壇上に突っ立っていた私の思いは、どかどかと響く子どもたちの足音にかき消されていった。

 

そして気づけば、ろくに祝われることもなく、ケーキも食べることができず、数十分後には、私も泣き喚きながら園内を走り回っていたのである。

 

集団でピアノの裏やカーテンの中に身を潜め、ぶるぶると震えた。あの時は本気で「殺られる」と思っていた。

 

私は保育園が大好きだし、

保育園で出会ったおともだち、せんせい、思い出は一生の宝物だ。今でも保育園時代の親友とは仲良くしているし、卒園して14年経っても恩師への年賀状を欠かした年はない。

 

しかし、

この記憶だけは

本当に許せないのである。

 

しかも1番許せないのは、

これが1度きりではなかったことだ。

 

2年目は少し期待した。

私(今年こそ、祝っておくれよ...!)

※当時はもっと可愛らしい言葉遣いしてます

 

が、淡い期待は呆気なく霧消した。

 

子ども1「きゃー!!!」

子ども2「見て見て!なんかおる!!!」

せんせい「みんなー!鬼さんがきたよー!」

 

もはやコントである。

 

 

3年目からは

たとえ誕生日会の日でも

私は泣いて保育園に行くのを拒むようになった。この時から大人というものを信用できなくなっていた気がする。

 

だって節分の日にやるんだもん!

 

鬼来るんだもん!

 

2月生まれのおともだちだけ扱いがぞんざいなんだもん!

 

せんせいたちの「早生まれの子も少ないし、2月はお誕生日会と節分まとめちゃっていいですよね?」って魂胆見え見えなんだもん!

 

もはや

節分 feat.お誕生日会だったよね

あれはほんと、よくないよ....

 

 

ここまで書いてみて、

保育園時代って結構面白いエピソードあるなと気づいた。

 

それだけ子どもというのは、純粋であるが故に感受性が豊かであり、強く記憶に残ることが多いのかもしれない。

 

気が向いたらまた幼少期エピソード書いてみます。